2024年
4月
9日
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毒になる感情と対処法

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「毒になる感情」という表現を見かけることがありますが、その意味するところはご存知でしょうか。

具体的には、怒り、罪悪感、羞恥、不安、恐れ、自己嫌悪、後悔、辛さなど、心の健康や人生にポジティブな要素をもたらさない感情のことで、本人だけでなく家庭や職場など周囲のあらゆる人々にも害になるという性質があります。有害な感情を放置しておくと、心身の健康に影響が及ぶ可能性があります。幸いなことに、有害な感情に対処し、ポジティブな思考パターンを身につける方法はたくさんあります。

過度なネガティブさに起因する問題から自分と周囲の人を守るためにはまず、自分の感情が周囲の世界にどう影響し、逆に世界が自分の感情にどのように作用するのかを理解することから始める必要があります。両者は相互に作用しあう関係にあり、そのような関係性はさらに網の目のように広がっています。なるほど、感情は風邪よりも簡単にうつる、と言われるわけです。

毒になる感情にとらわれやすい理由

様々な習慣と感情(善と悪の両方)を調査してみると、それらが周囲に伝染していく可能性があることが明らかになってきました。例えば、否定性を通じて築かれる対人関係に関する研究では、第三者についての否定的な意見を相手と共有することは、その相手と親密になる上で非常に効果的であることが知られています。ただ、それは他者に対する相互嫌悪の上に結びついてる関係です。1  確かに最初の絆はここで生まれるかも知れませんが、それが健全な友情の基盤となることはほとんどありません。このような対人関係は、人がかつて小さなグループごとに結び付き、他のグループを「敵」とみなして生命存続を導いてきた、原始時代の名残りと考えられます。

今日ではそのような関係性は機能不全になってしまったばかりか、むしろ「非存続」作用があると言えそうです。つまり、かつて人が生き抜く手段としたものが、現代においては、ネガティブな人や悪い影響を自ら引き寄せてしまう力になっているのです。別の研究の結果、一度ネガティブな体験をすると、その後不幸に陥る可能性が2倍になると報告されていますので、状況は一層悪化するでしょう。2

害になる感情に対処するには

実は、幸せや親切な行いもまた、他の人に伝染していきます。有毒な感情に対処する方法も、物事をよりポジティブに受け止める方法も同様の方法で学ぶことができます。何かひとつ善い行いをすれば、社会に網目のように広がる人間関係を通じて、見知らぬ人にまで良い影響を与えられる可能性があります。3 さらに嬉しいことに「幸せな」友人がひとり増えるごとに、あなたの幸福感が10%近くも高まる可能性があるということです。4 私たちには自分が意識している思考や感情を引き込む傾向があります。それに加えて、人間には仲間の表現の仕方やボディーランゲージ、スピーチなどを模倣するという原始的な本能があり、身近な人々の感情をより敏感に「受信」します。5

自分の感情が周囲の人々に影響し、また周囲の人々が自分の感情に影響を及ぼすことは明らかです。 6  当然、ネガティブな経験や有毒な感情にこだわる人に囲まれていると、同じような考えや経験に同調していってしまいます。

逆に、喜び、感謝、幸福など、ポジティブな感情に焦点を当てる人々と一緒にいるようにすると、肯定的な物事や人々、経験、アイデア、および概念に合った自分の考えや感情を見つけることができます。

これには自宅での時間を活用するのが最も簡単でしょう。自宅は特に自力でコントロールしやすい場所だからです。誰を家に招き入れるか、ステレオでどんな音楽を再生するか、テレビをどのチャンネルに合わせるのかを自分で選択しましょう。最初は些細なことと思われるかも知れませんが、このような環境要因は、あなたの感情に大きな影響を与える可能性があります。

ストレスの重なった1日を終えて自分だけの聖域に帰り、前向きな友人と時間を過ごしたり、気分を高揚させる音楽を聴いたり、気楽なショーを見たり、やる気が出るような本を読んだりと、ストレスを軽減するのに役立つ何かをすることで、ポジティブな心の再調整が助けられ、有害な感情が定着するリスクを軽減できます。

職場での有害な感情にどう対処するか

職場で有害な感情にとらわれないようにするためには、もう少し鍛錬が必要です。それは、職場では一緒にいる相手を選ぶということが難しいからです。部下を怒鳴りつける上司や、他の社員のゴシップが好きな同僚がいるなど、職場のネガティブな環境から逃れられないということもあるでしょう。

有害な感情の存在する環境で感染を防ぐ最善の方法は、職場内で楽しい何かを求めている前向きな同僚を見つけ、自分のポジティブ思考を強化することです。良好な人間関係に時間とエネルギーを投資すると、自身の善い行いと積極性がオフィス全体に波及し、否定性が打ち消されていくはずです。ネガティブな感情に毒されないことによってもたらされる違いを感じる同僚が増えるにつれて、この効果は雪だるま式になり、ストレスの軽減と感情の改善だけでなく、相互協力の向上、対立の減少、仕事のパフォーマンスの向上にもつながります。 7

職場、自宅、友人との外出、ディナーパーティーでの新しい人との出会いの中で、例えネガティブな働きかけを受けたとしても、それに反応する必要はないことを忘れないで下さい。

ネガティブ志向の人々は、しばしば自分たちの話に同調してくる人を探しているものです。有毒な感情とはどんなものかを考えるとき、何らかの状況やその場にいない人について、あなたに不平不満を言わせようとしてきた誰かとの会話を思い出す人は少なくありません。次に似たようなことがあったら、反応する必要はない、と意識してみましょう。否定的な感情に同意する必要はありません。また、その人と対立し口論する必要もありません。

毒になる人や環境を避けられない場合は

選択の余地なく、毒になる感情をあらわにする人々の近くにいなければならない場合、実質的に可能なのは、否定的なコメントに影響されないように自分を守ることです。自分の内なる思いを見つめなおし、自分の行動が、ポジティブな考え方や経験にフォーカスを置きたいという欲求に忠実であることを確認しましょう。

そして可能ならその場から素早く、失礼のないように立ち去って下さい。職場では、終わらせなければいけない仕事があるから、と言えばいいのです。ディナーパーティーでは、飲み物をとりに行くことを口実にできます。

感情はまるで細菌と同じように伝染していきます。そして、予防策を講じなければ、気づかないうちに有害な感情に感染してしまう恐れがあるのです。有害な感情に対する免疫力を強化するための最良の方法は、確固たる意志をもってポジティブな思考を持ち続けている人たちに囲まれて過ごすことです。

  1. Bosson, Jennifer K., Amber B. Johnson, Kate Niederhoffer, and William B. Swann.“Interpersonal Chemistry through Negativity:Bonding by Sharing Negative Attitudes about Others.” Personal Relationships 13, no. 2 (2006):135–50. https://doi.org/10.1111/j.1475-6811.2006.00109.x []
  2. Hill, Alison L. et al.“Emotions as Infectious Diseases in a Large Social Network:The SISa Model.” Proceedings of the Royal Society B:Biological Sciences 277.1701 (2010):3827–3835.PMC.Web.3 May 2017 []
  3. James H. Fowler and Nicholas A. Christakis.“Cooperative behavior cascades in human social networks.” PNAS 2010 107 (12) 5334-5338; published ahead of print March 8, 2010, doi:10.1073/pnas.0913149107 []
  4. Christakis, Nicholas A, and James Fowler.“SOCIAL NETWORKS AND HAPPINESS.” SOCIAL NETWORKS AND HAPPINESS | Edge.org, n.d. https://www.edge.org/conversation/social-networks-and-happiness []
  5. Colino, Stacey.“Are You Catching Other People’s Emotions?” U.S.News & World Report, n.d. https://health.usnews.com/health-news/health-wellness/articles/2016-01-20/are-you-catching-other-peoples-emotions []
  6. Larson, Reed W., and David M. Almeida.“Emotional Transmission in the Daily Lives of Families:A New Paradigm for Studying Family Process.” Journal of Marriage and the Family 61, no. 1 (1999):5. https://doi.org/10.2307/353879 []
  7. Barsade, Sigal G.“The Ripple Effect:Emotional Contagion and Its Influence on Group Behavior.” Administrative Science Quarterly 47, no. 4 (2002):644. https://doi.org/10.2307/3094912 []

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