2023年
12月
19日
|
15:17
Europe/Amsterdam

オリンピック三段跳び選手、クリスチャン・テイラーと目標設定について考える

読書時間: 7 分

目標の大小にかかわらず、目標はより幸せな人生への足がかりとなり、目標達成までの道のりがやがて大きな違いを生むことになります。

望むもの(目標)に向かって努力することは、人間にとって大切です。いつも順調に進めるとは限らず、困難も経験するかも知れませんが、それでも、目標は人生を豊かなものにします。目標は生きる意味と目的を与え、進みたい方向を示し、興味を引き出します。いずれも、幸福な人生につながる要素です。

今回は、2024年のパリ五輪を目指すオリンピック三段跳び選手のクリスチャン・テイラーさんに、彼の目標設定に対する考え方や経験について聞いてみました。

けがから回復したとき、2024年のパリ五輪に向けてどのような計画を立てましたか。

アキレス腱は、走る動作はもちろんですが、それ以上にジャンプで重要な役割を担うので、最初は復帰できるかどうかも分からず、不安でした。まず気にかかったのは、ジャンプのエネルギーを吸収し、放出するのに必要な腱の中でも、アキレス腱が最も重要だという点です。それでも、外科医やセラピストには、2024年にパリでオリンピックに復帰することが最終目標だと率直に伝えました。私が近道を求めず、長期戦を覚悟していることが伝わると、皆乗り気になって期待を寄せてくれました。そこから、段階を踏んで詳細なリハビリテーション・プログラムを構築していきました。

あとは何でもきちんとこなすのみ。また似たようなけがをして再起不能になるリスクを、どれだけ回避できるか考えました。最初にきちんとやれば、二度三度とやり直す必要はないのです。このような心構えでリハビリに取り組みました。

当初の計画通りにできましたか、それとも何か変更しましたか。

計画には柔軟性を持たせつつ、例えば、次のような指標を設けました。

            3ヵ月:松葉杖を使わずに歩く

            6ヵ月:より速く歩けるようになる

人生に不確実性はつきものですから、目標を設定する際には流動性と柔軟性がとても重要です。計画を立てていても、思わぬ転機が訪れることがあります。そんなときにどう適応するかが重要です。私は、計画に対して柔軟であればそれだけ、ポジティブでいられることに気づきました。もし予定通りに達成できなかったとしても、少なくとも正しい道を歩んでいる、と思うことで、敗北感を味わうのではなく、より前向きな気持ちでいることができます。

あなたにとって、今年はどんな一年でしたか。 今のお気持ちはいかがですか。

最高です。とはいえ、自信が持てないときや、停滞期に入っていると感じたとき、体の限界ではないかと思ったときは確かにありました。私は毎週カウンセラーと話をしているのですが、そのおかげで、以前のことを手放して、けがをした後の自分の変化を受け入れる必要があると考えられるようになりました。私はかつてできていたあれこれをバックミラーで見ることにエネルギーを使いすぎていました。今の自分、今の自分にできること、可能だと思うことを受け入れ、前を向くよう、カウンセラーに励ましをもらいました。実際に受容ができたとき、私は再び前へ進み始めたのです。

目標を設定する際は、複数のプランを作成するのでしょうか。

2024年のパリ大会で優勝するという最終的な目標は不動ですが、そこに至るまでの目標はそうではありません。私の場合は、プロセスがやや柔軟であることが重要です。途中思うように進めなくても、マインドセット、心構えでライバルに差をつけることができると私は信じています。実際の身体能力とは別の、競技に対する見方、モチベーション、挫折への対処の仕方などに、私の強みがあるのです。

私も人間ですから敗北や失望を感じる瞬間はありますが、それを長引かせることはありません。ゴルフに例えると、ボールを打った時に完璧なショットができたと思ったのに、林の中に入ってしまうと動揺します。でも、次のショットを打つまでに、その動揺は手放さなければなりません。これは、人生を歩む上での心構えと同じです。何らかの感情を経験しても、ある時点でそれを手放して前に進まなければならないのです。

心構えの元になっているものは何ですか。誰かから学びとる必要はありましたか。

実は、この考え方を教えてくれたのは父なんです。父はいつも、手放せ、と言っていました。当時はまだ子どもだったので、自分の世界を理解しない父にもどかしさを感じたものです。父が言うには、この先失敗することもあるし、成功よりも失望することの方が多いだろう。その悔しさを持ち続けていると次の達成の妨げになってしまう、と。きっぱりと語ったその意味を、私は後になって理解することになりました。今の私は撥水機能を身につけたように、何かが降りかかっても受け流しています。

ご家族やお友達などのサポートグループは、あなたの歩みにどのように関わっていますか。

私にはとてもしっかりしたサポートネットワークがあります。物事が本当にうまくいっているときは、私が地に足をつけて謙虚でいられるように、また、私が落ち込んでいるときは、最高の気分を思い出せるように励ましてくれる、そんな人たちに囲まれています。皆が私の土台を支えてくれているのです。目標設定に関して言えば、私は年とともに自分で自由に探求し、自分のことを自分でできるようになってきましたが、幼い頃から両親には常にベストを尽くすよう教え込まれてきました。

私が何をするにしても、両親はいつも励ましてくれました。自分のやろうとしていることについて、よく調べて取り組むよう、そして優れた力を発揮できるよう、促してくれたのです。仕事に対する姿勢やメンタルがライバルと違うのは、幼い頃からそうやって培われた価値観があるからだということに、やはり後になってから気づきました。私は両親に心から感謝しています。調子のいい時も良くない時も支え、然るべき時には背中を押してくれる、そんな存在です。

この数年で、ご自身の考え方に変化はありましたか。

はい。パンデミックの直前にカウンセリングを受け始めたのですが、メンタルヘルスとセルフケアの重要性を理解したことで、また一段階、成長した気がします。若いうちは無敵なものですが、大人になるにつれて、セルフケアの重要性を認識するようになります。スポーツに関しては、回復に要する時間が長くなることや、回復後を考えることを重視するようになりました。そして、何か決断をするときは、自分のことだけではなく、妻や家族のことも考えるようになりました。私のマインドセットは、これからも進化していくことでしょう。

どのようにしてモチベーションを維持していますか。

非営利活動で出会う子ども達に助けられています。私は2014年からNPO「クラスルーム・チャンピオンズ」に参加し、低所得などの問題を抱えた地域の子ども達をサポートしています。2012年のロンドン大会では、生涯の目標を達成しました。その瞬間はとても誇らしかったのですが、国歌が流れる中、表彰台に立ったとき、少し寂しさを感じて、何かもっと見つけなければならないことがある、と思いました。スタンドには家族もいましたし、自分が代表した人たちがそこにいるのに、なぜか距離を感じたのです。マネージャーと相談して、世界記録を追いかける話もしましたが、それだけでは物足りないような気がしました。

そこでマネージャーが、指導員として子どもたちに関わることを勧めてくれました。出張が多い私には難しいかと思いましたが、クラスルーム・チャンピオンズなら、オンライン指導で全米の生徒や先生と取り組むことができます。まずは2クラスを受け持ちましたが、誰かの人生にインパクトを与えることができる素晴らしさを感じました。こうして多くの人と関わり、変化を生むことができる、という手応えを得て、自分のトレーニングに目的があると思えるようになったのです。私のキャリアはもはや私だけのものではありません。私が彼らに何を与えることができるか、またその逆も然りなのです。私は子どもの率直さが大好きです。悩んでいるときは、子ども達のおかげで考えすぎずにいられました。

ですから、リオの表彰台に上がったとき、今度は感無量で涙が溢れました。実際の成果よりも、それまでの4年間、私が関わり、私を見てくれていた子ども達を思ってのことでした。

特定の目標へ向かっていくとき、重要なスキルとはどのようなものでしょうか。

忍耐力と回復力でしょうか。私はいつも、失敗や挫折があっても大丈夫だと話しています。失敗や挫折は、次への学びの機会ととらえればよいのですから。私はこれまで何度も負けてきましたが、誰もそのことを記憶していません。本当に勝つべき時には勝ってきた、と私は思っています。私は決してあきらめず、レジリエンス、回復力を発揮しました。また、夢を実現するためには、周りにいる人が鍵となります。

小さな勝利も大切にしていますか。

もちろんです。毎朝目覚める度に感謝していますし、陸上競技に関しては、10年前は当たり前だったことが、今ではひとつひとつをとても大切に思えるようになりました。けがをしてからは、小さな節目を迎えるたびに、できたことを祝うのを重視しています。そこに至らなかった可能性もあったわけですから。

オフシーズンは競技から離れているのでしょうか。

シーズンが終わっても、3週間くらいは競技に気持ちが向いています。夜、就寝してからも、もっとこうすればよかったと反省したり、睡眠時間を増やすべきだっただろうか、移動日程をもう1日多めに設けておくべきだっただろうか、ライバルに易々と渡してしまったことはなかったか、などなど、できたかも知れないことを考えたりしています。私はいつも1%ずつ改善していくようにしています。最終的に必要なのは1%の改善なのですから、それができたら充分に誇ってよいと思っています。

自分にとって最大の審査員は自分自身です。つまり、最後に寝転がって、全力を出し切ったと振り返れるかどうか、です。次の年に改善したいことや反省点は、思い出せるように書き出しておきます。つまづきから学ばなければ、つまづいた意味がありません。それではもったいない。オフに入って3週間ほど反省をしたあとは、スイッチをオフに切り替えます。

才能とマインドセット、どちらが成功の要だと思いますか。

私は常に、自分の成功はマインドセットによるものだと考えています。もしも、アスリートの集まった部屋の中に入ったとしたら、私はまず左右を見渡すでしょう。私が他の誰よりも才能で優れているとは思いません。が、それこそが私のモチベーションになります。私はいつも、相手の目を見て、その人の意気込みを探ります。モチベーションがわかれば、どの程度競って来るかが分かるんです。そこは心理戦ですから、私の成功は100%心構えによるものだと思います。

今、目標に向かっている人たちへのメッセージをお願いします。

目標を設定するときは、大胆に、そして大きな夢を持って下さい。安全策をとるのは簡単なことです。目標が何であれ、困難を乗り越える方法を見つけ、逆境よりも強いモチベーションを見つけて、何度でも立ち向かう心構えを忘れないで下さい。目標やシーズンごとに変化はあっても、答えはきっと見つかります。それを心に留めて、集中力を高めて下さい。

スポーツでも、健康でも、仕事でも、バランスのとれた生活をすることでも、目標設定の背景にある考え方はすべての人に通じるものです。クリスチャンが言ったように、あなたのマインドセットがすべてです。

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