2024年
1月
9日
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13:14
Europe/Amsterdam

利他主義と幸福感

読書時間: 3 分

誰かを助ける行動が幸せにつながる

利他主義について考えてみたことはありますか。利他主義とは他の人間や生き物の幸福のために道徳的に行動することですが、これはしばしば本人のクオリティ・オブ・ライフの向上をもたらします。他者の役に立つことが自分のウェルビーイングになる、というわけです。

中国にはこんな格言があります。「1時間の幸福が欲しければ昼寝をしなさい。1日の幸福が欲しければ釣りに行きなさい。1年の幸福が欲しければ遺産を受け継ぎなさい。一生の幸福が欲しければ、他の誰かを助けなさい。」 これは利他主義を端的に説明しています。幸せは他の誰かを助けることで見出されるのです。

利他主義と幸福感の関連性に関する科学的研究

利他主義と幸福感が直結しているという説は科学的に裏付けられています。利他主義、思いやり、共感、世話、手伝いといった行為やそうしたいと望む気持ちは、全般的な健康と長寿に深く関わっているそうです。圧倒的な課題がプレッシャーにならない限り、共感に基づいて行動するとき、それは自分のためにもなっているということです。1

過去1年以内に大きなストレスのかかる出来事を経験した人を対象に、友人や家族に何らかの具体的な手助けをしたかどうかを調べたところ、自分の時間や能力を他の人に分け与えていた人々は調査期間中の死亡率が明らかに低かったことが報告されています。2

利他的な生き方にこのようなメリットがあるのは何故か

要因として考えられることはいくつかあります。誰かを助けた後のポジティブな感情はエンドルフィンに起因するものであり、内因性カンナビノイドも関与している可能性があります。いずれも運動中に分泌される快感物質と同じです。運動は自分の体のケアにつながる行為で、報酬としてこのような物質が快感をもたらすのですが、他の誰かを助けることでも同様のことが起きると考えられています。

また、手助けをする立場になると、自分がすでに手にしている物事への感謝の気持ちが湧いてきます。何かと所有物で比べられる時代だからこそ、感謝の気持ちを大切にすることに深い意義を感じられるのではないでしょうか。感謝の気持ちで満たされれば、欲望を手放して、今この瞬間をより自由に生きることに幸せを見出せます。

人助けをすることで自分の問題から離れられる

人助けをしている間は誰かの役に立つことに意識が向くので、自己の内部でネガティブな思考が空回りしたり、自分の問題で頭がいっぱいになったり、といった状況から脱することができます。研究によると、何らかの病症を抱えていても、似たような病症に悩んでいる人の相談に乗っていると、自分の苦痛や障害も和らぐように感じる傾向が認められたということです。3

助け合いと思いやりのある生活から生まれる幸福感は、特別なものです。カリフォルニア大学ロサンゼルス校とノースカロライナ大学は、革命的な研究でこの点を浮き彫りにしました。科学者は幸福感と炎症の関連性に着目し、がんや他の慢性非感染性疾患の根本に関与しているのではないかと考えました。炎症はストレス度の高い生活をしている人により多く見られます。このようにストレスと炎症が連携しているのなら「幸せ」に暮らす人は炎症を起こしにくい、と予想されるでしょう。ところが事実は少し違いました。

何と、自分にとって喜ばしいことから幸せ(快楽追求型の幸福)を感じている人には高率で炎症が認められました。これに対して、利他的な善行に幸せ(徳の高い幸福)を感じている人は炎症レベルが低いことが明らかになったのです。4

利他主義に後ろめたさは無用

人を助けることに快感を覚えても一向に構いません。あくまでも自分の判断でやっていることだから、と自分に言い訳する必要はありません。あなたの行動が他の誰かの暮らしをより良いものにしたのなら、それはすばらしいことです。その喜びを実感するのに後ろめたさは無用です。

利他的な行動がもたらすメリットと幸福感は連携していて、人生をよりポジティブな体験と気持ちで満たしてくれます。

研究によると、他者の力になりたいという欲求は人間に生まれつき備わっているそうです。ぜひ、ありのままに受け入れて下さい。ブリティッシュ・コロンビア大学の科学者は、利他主義の恩恵はわずか2歳の子供でも享受できることを明らかにしました。単におやつをもらった子供と他の誰かにおやつをあげるというタスクを実行した子供を比べると、後者の方がより大きな幸せを実感したということです。5

これはまさに私たちに人助けの欲求が備わっていることの証です。人助けに喜びを感じることに、何ら問題はないのです。人の役に立ちたいという気持ちはごく自然な善意であって、自分勝手な理由で行動に出ている訳ではありません。実行して良い気分を味わえるのは、ちょっとした役得というものです。

  1. Post SG. Altruism, happiness, and health: it’s good to be good. Int J Behav Med. 2005;12(2):66-77. []
  2. Poulin, Michael J. et al. Giving to Others and the Association Between Stress and Mortality. American Journal of Public Health 103.9 (2013): 1649–1655. []
  3. Carter, Sherrie Bourg. Helper’s High: The Benefits (and Risks) of Altruism. Psychology Today. Sussex Publishers, 04 Sept. 2014. Web. 13 July 2017. []
  4. Fredrickson, Barbara L. et al. A Functional Genomic Perspective on Human Well-Being. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 110.33 (2013): 13684–13689. PMC. Web. 13 Aug. 2017. []
  5. Aknin LB, Hamlin JK, Dunn EW. Giving Leads to Happiness in Young Children. PLOS ONE 7(6): e39211. []

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